記事・解説
マンション大規模修繕談合|42社の違反認定、課徴金16億3,788万円と設計コンサルの関与
マンションの大規模修繕で、複数の見積書を比べて施工会社を選んだはずなのに、その前に受注する会社が決まっていた――。関東地区の管理組合が発注した工事を巡り、設計コンサルタントと施工会社が共同で競争を制限した事件の実態が、公正取引委員会の命令書から明らかになりました。
公取委は2026年9月28日、計42社の独占禁止法違反を認定。38社に排除措置命令、37社に総額16億3,788万円の課徴金納付命令を出しました。本記事では、行政処分で認定された内容と報道を区別し、管理組合にとって何が問題だったのかを整理します。資料確認日:2026年10月5日。(公取委の発表)
対象は関東のマンション修繕工事――公共工事とは異なる事件
対象は、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県・栃木県・群馬県にあるマンションで、管理組合がリノシスコーポレーションまたは翔設計に設計コンサル業務を委託した上で発注した大規模修繕工事です。国や自治体が発注する公共工事の談合ではありません。設計コンサルと施工業者が、管理組合に提示する価格や受注先の選定に関与したことが問題になりました。(リノシス関係の命令書、翔設計関係の命令書)
42社・38社・37社は、それぞれ何の数字か
- 42社:違反が認定された事業者の実数。
- 38社:排除措置命令を受けた事業者の実数。
- 37社:課徴金納付命令を受けた事業者の実数。
リノシス関係の課徴金は9億2,157万円、翔設計関係は7億1,631万円です。両方の事件に関係する会社があるため、各事件の社数を単純に足すと重複します。「42社すべてに課徴金」と説明するのも正確ではありません。会社別の処分と金額は、公取委の別表1と別表2で確認できます。
見積り合わせが競争として働かなくなった仕組み
命令書によると、管理組合は公募や指名で参加する施工業者を集め、見積書やヒアリングを基に発注先を選んでいました。しかし、その手続きの背後では、設計コンサルと協力関係を築いた施工業者を受注予定者にする合意が存在していました。
- 施工業者が設計コンサルに受注の希望を伝えるなどして、協力関係を築く。
- 受注予定者がコンサルとの協議などを経て、各社が管理組合に提示する見積価格を決める。
- ほかの施工業者は連絡された価格で見積りを出す、または見積り合わせに参加しない。
- 設計コンサルが設計予算などの情報を提供し、受注予定者の意向を踏まえて業務を進める。
この合意について、公取委はリノシス関係で遅くとも2021年9月27日以降、翔設計関係で遅くとも同年11月16日以降と認定しています。ただし、合併や事業承継などにより、個々の会社の対象期間には違いがあります。(命令書・理由第1、翔設計関係の認定)
この仕組みから分かるのは、見積書の枚数だけでは競争の有無を判断できないということです。管理組合が見ている比較表の価格が、独立した各社の判断で作られたものかが重要になります。
契約価格の5%を目安とした、施工業者からの支払い
両命令書は、設計コンサルの協力を得て受注した施工業者が、協議に基づき、原則として工事請負契約価格の5%を目安とする金額をコンサル側へ支払っていたと記載しています。すべての工事で一律に5%だったとまでは書かれていません。(リノシス関係・金銭の支払、翔設計関係・金銭の支払)
公取委は別途、受注時の手数料の取り決めや、有利な情報の提供が競争をゆがめるおそれを指摘しました。例として挙げたのは、管理組合が開示を望まない発注予定金額、選定基準、参加業者名、他社の見積価格です。(公取委「手数料等について」)
報道の「約310億円」と課徴金・被害額を混同しない
毎日新聞の2026年9月29日配信記事は、2022年2月~2025年2月に契約された171件の発注額を計約310億円と報じています。これは工事の発注額であり、課徴金16億3,788万円とは別の数字です。約310億円全額が損害と認定されたことを意味しません。(毎日新聞記事・StartHome配信)
同記事には、施工会社の担当者が談合は10~20年前からあったと説明したとの報道もあります。ただし、担当者の説明と、公取委が命令書で認定した期間は区別する必要があります。関係する全社が20年間にわたり違反したと一括して断定する根拠にはなりません。
管理組合が確認する資料と、今後の業者選び
命令書の別表4には対象工事が記載され、命令の対象となった施工業者や設計コンサルには、該当する管理組合への通知も命じられています。まず工事名や契約資料を照合し、受領した通知の内容を確認することが、事実関係を整理する出発点になります。(リノシス関係・主文および別表4、翔設計関係・主文および別表4)
以下は、認定された仕組みを踏まえた本サイトの確認ポイントです。
- 選定の記録:募集条件、参加業者、辞退の経緯、見積書、比較表、理事会・総会の議事録をそろえる。
- 情報の扱い:予算や選定基準を誰が把握し、どの業者に伝えたかを確認する。
- 金銭関係:コンサルが施工業者から手数料などを受け取る契約・取り決めがあるか、書面で説明を求める。
- 説明の検証:見積りや業者選定に疑問が残る場合は、当該発注に関与していない専門家に資料を見てもらう。
会社名が一致するだけで、その会社が施工したすべてのマンションの工事が談合対象になるわけではありません。工事ごとの資料を確認する必要があります。また、価格が似ていることだけを理由に談合と断定することも避けるべきです。
関係会社の説明と、再発防止の実行を確認する
翔設計は公式サイトで排除措置命令を受けたことについて謝罪し、再発防止と信頼回復に向けた取り組みを公開するとしています。(翔設計の公表ページ)
今後確認したいのは、謝罪の有無だけでなく、管理組合への具体的な説明、業者間の金銭関係の開示、予算情報の管理、見積りの独立性がどう改善されるかです。住民が費用を負担する修繕工事だからこそ、発注先を決める過程を後から検証できる記録が重要になります。

